ケーブルの曲げ半径とは? データシートを正しく読むための実務ガイド
HELUKABEL(ヘルカーベル)GmbH は、ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州ヘミンゲンに本社を置く、ケーブル・電線およびケーブルアクセサリの国際的メーカーです。1978 年の創業以来、産業機械、インフラ、再エネ、モビリティなど幅広い分野へ製品を供給し、現在は世界 43 か国に拠点を展開しています。
本記事では、「曲げ半径とは何か」、「なぜ重要なのか」、そして HELUKABEL のデータシートに記載される『固定:4×外径』などの値を、実務でどう解釈・活用するかを、分かりやすく解説します。
曲げ半径とは?基本の考え方
1. 「半径」であることが重要
曲げ半径(minimum bending radius) とは、ケーブルを曲げて敷設・使用する際に、これ以上小さく曲げてはいけない半径 を示す値です。ポイントは「直径」ではなく “半径” であることです。
- ケーブル外径 : d(例 : 10 mm)
- データシート「最小曲げ半径 : 4×外径」の場合
→ 最小曲げ半径 r = 4 × d = 40 mm
→ ケーブルが描く円の直径(曲げ円径)は 80 mm
つまり、「4×外径」と記載されているケーブルを、直径 30 mm の丸棒などにぐるっと巻き付けると、最小曲げ半径を大きく下回り、絶縁損傷や導体疲労のリスクが高くなります。
2. なぜ最小曲げ半径が決められているのか
ケーブル内部には、銅撚線・絶縁体・シールド・外被 など、複数の層が重なっています。曲げ半径が小さすぎると、以下のような問題が発生します。
- 導体撚線への機械的ストレス → 金属疲労・断線
- 絶縁体のひび割れ・圧縮変形 → 絶縁抵抗低下、短絡リスク
- シールド編組の開き・密度低下 → EMC 性能の悪化
- 外被への応力集中 → 表面クラック・早期劣化
HELUKABEL の技術記事でも、ケーブル寿命を縮める要因として「機械的曲げ/ねじり」や「急激な曲げ」が挙げられており、最小曲げ半径を守ることが長寿命化の鍵 とされています。
データシートの「最小曲げ半径」を読むときの基本
HELUKABEL のデータシートでは、多くの製品で以下のような表現が使われます。
- Minimum bending radius fixed : 固定配線時の最小曲げ半径
- Minimum bending radius flexible / moving : 可動用途(フレキシブル)の最小曲げ半径
- 表記例 :
fixed(固定設置): 4× Outer-Ø
moving / during installation(設置時): 7.5× Outer-Ø や 10× Outer-Ø など
1. 「固定(fixed)」と「可動(flexible / moving)」の違い
同じケーブルでも、固定配線 と 可動用途 で許容される曲げ半径が異なります。例えば、あるドラッグチェーン対応ケーブルでは、以下のように設定されています。
- 固定用途 : 最小曲げ半径 4×外径
- 可動用途(ドラッグチェーン): 最小曲げ半径 7.5×外径
可動用途では、ケーブルが繰り返し曲げられるため、1 回だけ曲げる固定用途よりも大きな曲げ半径(=緩やかなカーブ)が必要になります。
2. 「設置時」と「運転時」が分かれているケース
産業用イーサネットケーブルなどでは、次のように設置時(during installation) と 固定運転時(fixed installation) を分けて記載することもあります。
- during installation : 8×外径、10×外径
- fixed installation : 4×外径
これは、配線作業中の引き回しや巻き癖取りの方が、ケーブルに大きなストレスがかかる ためです。設置時は余裕を持った曲げ半径を守り、設置後は固定配線として 4×外径などの条件で使用する、という考え方です。
実務での計算例 :『4×外径』を数値に落とし込む
1. 固定配線の例
- 対象ケーブル : 外径 10 mm
- データシート記載 : 最小曲げ半径 固定設置(Minimum bending radius fixed): 4× 外径
計算すると :
- 最小曲げ半径 r = 4 × 10 mm = 40 mm
- 曲げ円の直径(ケーブルが巻き付く想定の棒の最小直径)は 80 mm
=直径 80 mm 以上の丸棒・ローラー・ケーブルガイドに巻き付けるのが安全
2. ドラッグチェーン内の可動配線の例
- 対象ケーブル : 外径 12 mm
- データシート記載 :
- 固定 : 4×外径
- ドラッグチェーン / 可動 : 7.5×外径
可動用途での最小曲げ半径は :
- r = 7.5 × 12 mm = 90 mm
- 曲げ円の直径は 180 mm
したがって、チェーン半径は 90 mm 以上、チェーン内径(曲げ円直径)は 180 mm 以上 を確保する必要があります。これを下回る設計をすると、サイクル寿命が極端に短くなる可能性があります。
HELUKABEL データシートの見方 : チェックポイント
HELUKABEL の日本語技術記事「 耐熱ケーブルガイド 」などでは、データシートを読む際のチェック項目として、最小曲げ半径(固定/フレキシブル) が重要な項目のひとつとして挙げられています。
データシートを見るときは、次の順番で確認すると便利です。
- 用途区分の確認
- fixed installation(固定配線)
- flexible / drag chain / robot(フレキシブル・ドラッグチェーン・ロボットアームなど)
- 外径(Outer-Ø)の確認
- 例 : 10.2 mm、6.8 mm など
- 曲げ半径の計算に必須の値です。
- 最小曲げ半径の条件を読む
- 固定 : 4×外径
- フレキシブル : 7.5×外径
- ドラッグチェーン : 7.5 ~ 10×外径 など
- 設置時 vs 固定設置の値を区別
- 設置時 : 8×外径
- 固定設置 : 4×外径
→ 配線作業中にも注意が必要です。 - 関連する機械的特性もセットで確認
- 引張強度、許容引張荷重、耐摩耗性、耐振動 など
設計・施工シーン別の注意ポイント
1. 制御盤内・装置内の狭所配線
制御盤や機械内部では、限られたスペースに多くのケーブルを収める必要があります。このような場面では、曲げ半径を無視した急カーブ が発生しやすく、絶縁破損や誤動作の原因になります。
- 必ず 「固定 : 4×外径」などの条件を満たすように曲げる
- ケーブルダクトやガイド角部では、R 付きのパーツ を使用して急カーブを避ける
- 熱や油の影響がある場合は、耐熱・耐油性能も併せて確認
2. ドラッグチェーン・ロボットアームなど連続可動用途
ドラッグチェーンやロボットのジョイント部のように、繰り返し動く部分 では、曲げ半径が寿命に直結します。HELUKABEL は、可動ケーブルの曲げ疲労を評価するためのベンディングテストを行っており、可動用途では固定用途よりも大きな曲げ半径を推奨しています。
- チェーンメーカー推奨の チェーン半径 と、ケーブルの 最小曲げ半径 の両方を満たす設計にする
- 実際には、最小値ギリギリではなく +20〜30% 程度の余裕 を持たせると安心
- ねじり(ツイスト)が加わる用途では、ねじり仕様ケーブル と専用の曲げ半径条件を確認
3. 屋外配線・インフラ用途
CV / CVT ケーブルなど、インフラ・配電用途では、曲げ半径の小ささが敷設自由度 に直結します。
- ルートの途中にある 管路の曲率 や 手元スペース が曲げ半径を満たすかを事前に確認
- 低温環境ではケーブルが硬くなるため、設置時の推奨曲げ半径 を厳守することが重要
HELUKABEL Japan からのおすすめアクション
1. まずは自社設備の「曲げポイント」を洗い出す
盤内の角、ケーブルダクトの出口、チェーンの曲げ部など
→ どの箇所で最小曲げ半径に近づいているか をリストアップ
2. データシートで「4×外径」「7.5×外径」を数値に変換
- 主に使用しているケーブルの 外径一覧 を作成
- 固定・可動それぞれについて、必要な最小曲げ半径・曲げ円直径 を計算しておく
3. 設計標準・社内ルールに落とし込む
- 「固定配線では 4×外径+20% 以上を目安」
- 「ドラッグチェーンでは 7.5×外径以上、可能なら 10× 外径を確保」
など、簡単な設計ガイドライン にしておくと、現場の判断がスムーズになります。
曲げ半径は、ケーブルの長寿命・安全性・安定動作を左右する重要な指標 です。HELUKABEL のデータシートに記載される「固定 : 4×外径」「フレキシブル : 7.5×外径」などの値を正しく解釈し、設計・施工で数値として守ることで、思わぬトラブルや早期劣化を防ぐことができます。
より詳しいケーブル選定のポイントは、HELUKABEL Japan の技術記事もあわせてご覧ください : 用途に最適なケーブルを選ぶための 10 の必須チェックポイント