電線導体の撚り構造を理解する
デュプレックス・トリプレックス・星形カッドの違いと選び方
制御盤・設備配線・産業用ネットワークなどで「同じ太さ・同じ電圧仕様なのに、あるケーブルはノイズに強く、あるケーブルはトラブルが多い」——そんな経験はないでしょうか。
その差を生む要因のひとつが、導体や芯線の「撚り構造」です。
本記事では、日本のお客様向けに、デュプレックス(Duplex)、トリプレックス(Triplex)、星形カッド(Star Quad)といった撚り構造の種類と特長をわかりやすく解説します。
撚り構造がケーブル性能に与える影響
電線やケーブルの「撚り」は、大きく 2 つのレベルで考えられます。
1. 導体レベルの撚線構成
- 単線(クラス 1)
- 撚線(クラス 2)
- 細撚線(クラス 5)、極細撚線(クラス 6) など
これらは IEC 60228 / DIN VDE 0295 によってクラス分類され、柔軟性や耐久性が規定されています。
2. 芯線どうしの撚り合わせパターン
- 2 芯をひとまとめにしたデュプレックス
- 3 芯を三つ編み状にしたトリプレックス
- 4 芯を十字状に配置したスターカッド など
後者の芯線どうしの撚りパターンの違いが、以下の要素に大きく効いてきます。
- 電磁ノイズ(EMI)・クロストークへの強さ
- 伝送遅延差(伝播時間差)
- 屈曲・ねじりに対する耐性
- 外径・重量・配線性
コスト(構造が複雑なほど高価になりやすい)
導体クラスの基礎をざっくりおさらい
詳細は HELUKABEL ニュースルーム記事「 用途別に適した銅導体の撚線構成 」もあわせてご覧ください。
ここでは、最低限押さえておきたいポイントを整理します。
- クラス 1 : 単線
剛性が高く、建物の固定配線などに適した構造。 - クラス 2 : より線(多芯撚線)
太い導体を構成でき、電力ケーブルによく用いられる。 - クラス 5 : 細撚線
多数の細い線を撚り合わせ、高い柔軟性を実現。制御ケーブルやドラッグチェーン用ケーブルで一般的。 - クラス 6 : 極細撚線
更に細線を多数用いることで、ロボットや高頻度屈曲用途に対応。
ポイント :
「どのクラスの導体を使うか」でケーブルの“しなやかさ”と“耐久性”が決まり、
「どの撚り構造(デュプレックス/トリプレックス/スターカッド…)を採用するか」でノイズ耐性や配線性が決まる——とイメージすると分かりやすくなります。
芯線の撚りパターンの代表例
1. デュプレックス(Duplex): 2 芯を 1 組にした基本構造
デュプレックスは、2 本の絶縁導体を 1 組にまとめた構造で、次のようなバリエーションがあります。
- ツイストペア型デュプレックス
2 芯を互いに撚り合わせた構造。
典型例 : RS-485、4–20 mA、産業用イーサネットの 1 ペア部、センサーケーブルなど。 - 平行型デュプレックス(ジップコード型)
2 芯が並列に配置され、必要に応じて裂いて分離できる構造(照明用などで見られます)。
■ 特長(ツイストペア型の場合)
- 互いに逆向きに撚ることで、磁界・電界ノイズが両導体にほぼ同量誘起される
→ 差動信号の場合、受信側で共通モードとして打ち消しやすい - 対称性が良いため、インピーダンス特性が安定し、高速信号に適する
- 2 芯だけなので構造がシンプルで、外径・コストを抑えやすい
■ よくある用途
- 工場内フィールドバス(RS-485、Modbus RTU など)
- 単ペアの産業用イーサネット/シングルペアイーサネット(SPE)
- センサー・エンコーダ・アクチュエータ配線
- 低電圧・信号ライン全般
2. トリプレックス(Triplex): 3 芯をバランス良く撚り合わせた構造
トリプレックスは、3 本の芯線を三つ編み状に撚り合わせた構造です。
送配電分野では、2 本の絶縁相導体を、1 本の裸中性線の周りに撚り合わせる「トリプレックス・サービスドロップケーブル」が代表例として知られています。産業用途では、次のような使い方がイメージしやすいでしょう。
■ 特長
- 3 芯を均等に撚り合わせるため、機械的バランスが良い
→ 曲げた際のストレス分布が比較的均一 - 電力用途では、2 相+中性線といった構成が取りやすい
- 渦電流・外部磁界の影響を3 芯間で平均化しやすい
■ よくある用途
- 低圧電力配線(海外の架空配電・サービスドロップなど)
- 3 線式センサー/計測回路(+、–、シールド/リファレンス)
- 一部のサーミスタ・温度センサー、三線式電源回路 など
産業設備では、トリプレックスよりも3 芯円形ケーブル(3G1.5 など)の方が一般的ですが、「3 芯をひとまとめにした撚り構造」としてトリプレックスの考え方は押さえておく価値があります。
3. スターカッド(Star Quad/星形カッド): 4 芯を十字形に配置し、対角線をペアとして使う構造
スターカッドは、4 本の芯線を十字状(星形)に配置し、対角線同士を 1 ペアとして扱う特殊な撚り構造です。オーディオ分野(マイクケーブル)や高品位な産業用データケーブルで用いられ、磁界ノイズに対する優れた耐性を持つことで知られています。
HELUKABEL Japan の記事では、PROFINET や EtherCAT などの産業用通信規格で
「2 対のツイストペアを星形カッドとして撚った構造」が用いられること、
その際に 4 芯が完全な円形に撚られていることが、伝送時間差の少なさと良好なデカップリングにつながると解説しています。(産業用アプリケーションに適したデータケーブルの選び方)
■ 特長
- 対角線上の 2 芯を 1 ペアとして使用することで、
外部磁界が 2 芯にほぼ等しく誘起される(共通モード)
→ 差動入力側でノイズを高い精度でキャンセル可能 - 4 芯の幾何学的対称性により、ペア間のクロストークが大きく低減
- 伝送遅延(トランジットタイム)の差が小さく、高速信号に有利
■ よくある用途
- プロオーディオ・レコーディング用マイクケーブル
- 産業用イーサネット/バスケーブル(PROFINET、EtherCAT などの一部仕様)
- ノイズ環境が厳しい工場内の長距離信号ライン
■ 注意点
- スターカッドでは、「対角線上の芯同士がペア」というルールを守って結線する必要があります。
これを誤ると、特性インピーダンスやクロストーク特性が崩れ、
せっかくのノイズ耐性が十分に発揮されなくなります。
4. 多対ツイストペア(Multi-Pair): 複数の対より線を束ねた構造
フィールドバス・イーサネット・計装ケーブルでは、ツイストペア(対より線)を複数束ねた「多対ケーブル」が広く使用されています。
- 各ペアごとにピッチ長を変えることで、ペア間のクロストークを低減
- 各ペアを色や番号で識別し、多チャンネルの信号を 1 本でまとめられる
- 必要に応じて、ペア単位のシールド(個別シールド)+全体シールドを組み合わせることで、ノイズ環境に応じたグレード設計が可能
HELUKABEL Japan では、産業用データケーブルの選定に関する記事で、
イーサネット規格/カテゴリとツイストペア構造の関係を詳しく解説しています。(イーサネット規格と「カテゴリ」の関係を解説)
用途別 : どの撚り構造を選ぶべきか
ここからは、「現場でどう使い分けるか」の視点で整理します。
1. センサー・I/O・一般制御信号
- 推奨構造 :
- ツイストペア型デュプレックス
- 必要に応じて、多対ツイストペア構造の多芯ケーブル - 理由 :
- 差動信号(+ / –)との相性が良く、EMI に強い
- 外径やコストとのバランスが取りやすい
2. 産業用イーサネット/フィールドバス
- 推奨構造 :
- スターカッド構造の 4 芯ケーブル(PROFINET 等で採用)
- または、規格に準拠した4 対ツイストペア構造のイーサネットケーブル - 理由 :
- 高速通信では、トランジットタイム差やクロストークが致命的
- 星形カッド構造は、伝送時間のばらつきを抑え、長距離・高速通信に有利
3. 電力/モータ駆動・三相配線
- 低圧配電(屋外サービスドロップなど):
トリプレックス/クアドラプレックス構造が標準的に使用されます。 - 産業機械内部の配線 :
一般的には、円形 3 芯ケーブル(例:3G2.5)やシールド付きサーボケーブル(3 相+ PE+信号ペアなど)の方が実務的です。 - ポイント :
「三つ編み状に撚ったトリプレックス」が常にベストというわけではなく、適用規格と機器メーカーの推奨構造を前提に選定することが重要です。
4. オーディオ・計測・微小信号
- 推奨構造 : スターカッド構造のバランスケーブル
- 理由 :
- 磁界ノイズが多い環境でも、高い S/N 比を確保しやすい。
- スタジオ音響だけでなく、工場内の微小信号ラインにも応用可能。
HELUKABEL が提供できること(日本のお客様へのメリット)
HELUKABEL グループは、ドイツ本社および世界 17 か所の生産・組立拠点で、
クラス 1〜5 の銅導体を用いた多様なケーブルを製造しています。
日本のお客様には、次のようなメリットをご提供します。
1. 欧州規格準拠の豊富なラインアップ
- IEC / DIN / VDE / UL / CSA など、国際規格に準拠したケーブルを多数ラインアップ。
- デュプレックス・スターカッド・多対ツイストペア構造など、撚り構造から逆算した最適なケーブル選びが可能です。
2. 日本語での技術サポート
HELUKABEL Japan の専任チームが、仕様検討・選定・サンプル手配まで日本語でサポート。
3. 関連記事との組み合わせで「理解+実務」を両立
本記事とあわせて、以下の記事もご覧いただくと、
導体構成 × 撚り構造 × データケーブル構造を立体的に理解できます。
撚り構造を「仕様の最後」ではなく「最初のチェック項目」に
- デュプレックス : 2 芯ペア。センサーやフィールドバス、シンプルな信号ラインに最適。
- トリプレックス : 3 芯撚り。特に配電分野で、2 相+中性線の構成に利用。
- 星形カッド : 4 芯の十字構造。
高速・高ノイズ環境で、優れたノイズ耐性と低クロストークを発揮。
同じ断面積・同じ定格電圧でも、撚り構造の選び方でノイズ耐性・寿命・トラブル発生率は大きく変わります。
新規設備の立ち上げや既存設備の更新時には、「電圧・電流・規格」だけでなく、撚り構造(Duplex / Triplex / Star Quad / Multi-Pair)も仕様書の“最初のチェック項目”として検討してみてください。